アジアのお箸

中国語・韓国語・ベトナム語・広東語が似ているので同時学習してみるブログ(東アジア漢字文化圏の言語の比較・対照)

ベトナム語は沼である

漢語系語彙でのアジアの言語のつながりに興味がある私としては、ベトナム語を学ぶ動機はもっぱら漢語系語彙(漢越語)にある。

 

二字熟語など、あきらかに漢語系語彙とわかるものはよい。ところが、一文字のベトナム語で、漢語系語彙か否か迷うものがよく出てくる。

 

例えばテキストで、1階・2階の「〜階」という意味でtầngという新しい単語が出てくる。漢越語だという記載はない。ふと、中国語で「層」という漢字はceng2と言ったことを思い出す。あれ?発音が似ている。ベトナム語の辞書を引くと、tầngは確かに漢越語であり【層】の漢字音であると出てくる。なるほど。

 

別の言葉で「〜したい」という意味でmuốnという新しい単語が出てくる。辞書を引いても漢越語ではない。しかしベトナム語のチュノムを調べるサイトを見ると、【悶】の字の読み方の一つにmuốnが出てくる。「〜したくて悶々と悶える」というイメージから、もしかして【悶】の訛音(古漢越語・越化漢越語)なのか?とも思うが、中国語辞典や漢和辞典に載っている【悶】の主な意味を見ていると、どうも違うような気がする。はっきりわからない。

 

また別の言葉で「〜の中」という意味でtrongという新しい単語が出てくる。辞書を引いても漢越語ではない。しかし【中国】のことをTrung Quốcというのを思い出す。trongとtrungは発音が似ていて、おそらくtrongは【中】の訛音(古漢越語・越化漢越語)で間違いないような気がする。しかし確実にそうなのかはわからない。

 

こうなると語源の世界になってくる。そもそも語源というのは複数の仮説に行き着きやすく、これが確実なルーツだと証明することは難しいことが多いと聞く。下手をすると、トンデモ理論のこじつけが生まれてしまう。まゆにつばをつけながら慎重に考えないといけない領域なのだ。

 

ベトナム語の辞書に漢越語だと載っているものは確実だからよい。しかしそうではない訛音(古漢越語・越化漢越語)の世界に踏み入れると、とたんに迷宮に入りこんでしまう。

 

ベトナム語の基礎語彙にはかなり中国語の影響があると何かで読んだことがある。そうなると、迷宮を目の前にしても、ついつい単語を一個ずつ調べたくなる。そして調べてもよくわからない、と頭をかかえることになる───。(独学では限界を感じる。専門研究の世界に入らなければならないのかもしれない)

 

漢語系語彙にこだわると、ベトナム語は沼と化す。

 

 

(以前、ベトナム語の漢字音について独学で調べました。下記の2つの投稿をご参照ください)

jkcv.hatenablog.com

jkcv.hatenablog.com