今回は【翻訳】と【通訳】を見るが、調べてみると言語によっては【通訳】が【翻訳】に吸収されつつあるように見える──。どういうこと?
日本語
ほんやく【翻訳】
つうやく【通訳】
中国語(普通話)
fan1yi4【翻译】※翻訳と通訳の両方の意味に用いられる
我觉得我的翻译是对的。(私は私の翻訳は正しいと思う。)
tong1yi4【通译】※昔の言い方であり今は使われない
韓国語
번역【翻訳】※韓国・北朝鮮では翻訳の意味で使われるが、中国朝鮮族では翻訳と通訳の両方の意味に用いられる
번역된 것을 읽었다.(翻訳されたものを読んだ。)
통역【通訳】
한국어로 회의를 통역했습니다.(韓国語で会議を通訳しました。)
Phiên dịch 【翻訳】※翻訳と通訳の両方の意味に用いられる
Người phiên dịch(通訳者)
thông dịch【通訳】※動詞の「通訳する」の意味では古い言い方。名詞の「通訳(者)」の意味では現役の言い方。
Thông dịch viện (通訳者)
〈参考〉漢和辞典(昔の中国語)
【翻訳】ある国のことばを他の国のことばになおす。
【通訳】互いに言語が異なり、意志の通じない者どうしの間に入って、双方のことばを訳し、意思を伝えること。また、その人。
〈参考〉日本語の国語辞典
【翻訳】語られた(書いてある)ある言語や文書の内容を、他の言語で言い直すこと。
【通訳】言葉が違うため話が通じない人の間に立って双方の言語を翻訳し、交渉や会話の仲立ちをすること(人)。
私の日本語の言語感覚では、【翻訳】は文書を訳すこと、【通訳】は音声を訳すこと、というイメージがある。
上記の各言語での使われ方を眺めると、もともとは【翻訳】と【通訳】は使い分けられていたが、現代中国語(普通話)では【通訳】が【翻訳】に吸収され、ベトナム語でも吸収されかけている、という傾向が見える。中国語朝鮮族の言語も、現代中国語(普通話)との言語接触による影響を受けている。
他方、日本語と韓国語は、もともとの使い分けを保ったままだ。
以下はこのブログを書き始めて気づいたあくまで私の仮説だが、漢字文化圏における漢語系語彙では、中国語(普通話)と日本語が、二大勢力になっていると思う。中国語(普通話)はベトナム語や中国朝鮮族の言語(さらには中国国内の他の言語)に影響を与えることが多く、日本語は韓国語に影響を与えることが多いと感じる(もちろんそうでない例もある)。
こういうことをもっと研究すれば面白いと思う。学生時代にこういう研究に打ち込みたかった。でも今からでも遅くない。