アジアのお箸

中国語・韓国語・ベトナム語・広東語が似ているので同時学習してみるブログ(東アジア漢字文化圏の言語の比較・対照)

日本語のアクセントの平板化は「専門家アクセント」だという話

昔から気になっていることがあった。日本語でアクセントを変えて言うこと。


例えば、「音楽」というときに、一般的な言い方では「んがく」というように頭の「お」が高くなるが、一部のアーティストがインタビューなどで「おんがく」と、「んがく」を高く言っているのを聞いたことがある。これを「アクセントの平板化」などと呼ぶらしい。


私は学生時代に音楽関係の部活をしていたことがあるが、そこでも部活仲間は色々なことをこの平板化したアクセントで読んでいた。「ター」ではなく「ギター」、「ラム」ではなく「ドラム」、「ース」ではなく「ベース」、「ンバル」ではなく「シンバル」、「ーラス」ではなく「コーラス」・・・。なんでかわからないけれどもみんなこんな風にいっていて、それが普通の感じだった(※注1)。


たまたま「日本語ウォッチング(井上史雄 著)」という新書を読んだ。1998年初版の少し古い本だ。そのなかでまさにこの「平板化アクセント」について書かれており、非常に合点がいった。


そもそもこのアクセントの平板化という現象は1960年前後にはすでに存在が指摘されていたらしい。もう60年以上も昔のことだ。


本書ではこの「平板化アクセント」のことを、別名で「専門家アクセント」と名付けている。なぜか。その道の通というか専門家に多く見られるからだそうだ。特に音楽関係に限ったことではない。水泳部員は「ドレー」を「メドレー」というらしい。バレー部員は「ア
ック」を「アタック」という。ドーナツ屋では「ーナツ」を「ドーナツ」という。サーフィンが好きな人は「ーファー」ではなく「サーファー」という。バイクが好きな人は「イク」ではなく「バイク」というらしい。


なぜ自分の専門分野の単語を、このように発音するようになるのか。本書ではその理由として下記の2つが考えられるとしている。


・アクセントを平板化すると、その単語は、その集団(または個人)にとって、親しい、当たり前の単語だということを発音の上に示すことになる。
・平板型のアクセントの方が簡単に発音しやすい(単純化・合理化・経済性に向かっている)。


なるほどなと思う。(ただし、この本は大学教授の方が書かれたものだが、論文や専門書ではなく、あくまで新書なので、一般の読者がわかりやすいように議論を単純化している可能性がある)


個人的な感覚としては、アクセントを平板化することで、その単語を「カッコつけて」響かせている印象がある。最初の例で、とあるアーティストがインタビューで「おんがく」と言っているのを聞いて、なにかその人の「音楽」に対する強いこだわりや信念のようなものがこめられているような印象を受けた。


いずれにせよ、私が以前から気になっていたこの発音の現象に「アクセントの平板化」という命名がされていること、1960年ごろというかなり昔から存在していたこと、またその現象が起きる背景として「自分の専門分野、興味のある分野」の単語であることが観察されているということは大きな気づきであった。私もこれからは例えば「アジア」のことを「じあ」ではなく「あじあ」とでも発音しようかな・・・。


※注1 実際には私はコテコテの大阪の学校に通っていたので、平板化アクセントは、1文字目から高くなっていた。例えば「ギター」ではなく「ギタ」、「ドラム」ではなく「ドラム」となっていた。文字ではお伝えしずらいのが残念だ。