アジアのお箸

中国語・韓国語・ベトナム語・広東語が似ているので同時学習してみるブログ(東アジア漢字文化圏の言語の比較・対照)

【毅然】ということば

【毅然】ということばは日中韓に存在するのでご紹介。


日本語
 キ(慣用音)ギ(漢音) ゼン(漢音)【毅然】


中国語(普通話
 yìrán【毅然】
  毅然离开了家乡。
  yìrán líkāi le jiāxiāng  
  (ためらうことなく故郷を去った。)


韓国語
 의연하다【毅然하다】
  의연한 태도
  (毅然とした態度)


ベトナム語
 該当なし


数日前に【依然】を取り上げた。
そのとき韓国語では【依然】は의연(ウィヨン)と読むことをみた。
ところで今日みた【毅然】は韓国語では全く同じく의연(ウィヨン)になる。
日本語では「イゼン」と「キゼン」と読み方が異なるのになぜか韓国語では同じである。どうしてか?


こういうときは中国音韻学に当たってみる。


まず【依】の声母(頭の子音)は「影」グループに分類される。
下の表(中国語版wikipediaから)をみていただきたい。
青丸の列が「影」グループである。



「影」グループは中古音(隋・唐のころの中国漢字音)では[ʔ(喉の奥を閉じる音)]であっただろうと再構されている。
このグループは現代音ではどうなったか。
北京音では[ʔ, j, w~ʋ]のいずれかになった。
韓国朝鮮音では"ㅇ"[子音なし]になった。
日本音では「アヤワ行」になった。


次に【毅】の声母(頭の子音)は「疑」グループに分類される。
下の表の赤丸の列が「疑」グループである。



「疑」グループは中古音(隋・唐のころの中国漢字音)では[ŋ(ng)]であっただろうと再構されている。
このグループは現代音ではどうなったか。
北京音では[子音なし, y, w, n]のいずれかになった。
韓国朝鮮音では"ㅇ"[子音なし]になった。
日本音では「ガ行」になった。(【毅】を「キ」と読むのは慣用音で、漢音では「ギ」である。)


このように手間はかかるが、頭の子音(声母)が中古音ではもともとどんな音だったのか、そしてそれが現代の各地の漢字音ではどう変化したのかを調べることができる。


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