アジアのお箸

中国語・韓国語・ベトナム語・広東語が似ているので同時学習してみるブログ(東アジア漢字文化圏の言語の比較・対照)

nyの音についてのメモ

日中韓越での漢字音の対照について、体系的に学びたいと思っている。しかしなかなか独学で学びやすい書籍に出会えず困っている。学問の分野としては中国語音韻学になると思うのだが、これがまた非常に難しくて私のような素人が色々本を当たってみてもチンプンカンプン。
先日、「漢字の音」(落合淳思 著)という本を読んでみて、なんとか理解できた部分をご紹介。


とある昔の中国語の音(中古音という)で、冒頭の子音が"ny"で始まるものについて、中国の南方方言では"ny"のまま(日本語の「ニ」に近い音)だったが、北方方言では"nzy"(日本語の「ジ」に近い音)に変化したと考えられている。
【児】という漢字は、日本漢字音で、呉音(中国の南方方言から取り入れたとされる音。しかし諸説あり)では「ニ」であり、漢音(中国の北方方言から取り入れられた音)では「ジ」になっていることと関連している。
他には【人】が呉音では「ニン」で、漢音では「ジン」となっている。【若】が呉音では「ニャク」で、漢音では「ジャク」となっている。


書籍に書かれていた内容としてはここまでとなる。


これを整理して、ふと思った。現代中国語(普通話)ではそり舌音の"r"になっているのではないかと。
つまり下記のとおり変化している。


【児(儿・兒)】:呉音「ニ」>漢音「ジ」>普通話"ér"
【人】:呉音「ニン」>漢音「ジン」>普通話"rén"
【若】:呉音「ニャク」>漢音「ジャク」>普通話"ruò"
 ※【児(儿・兒)】の"ér"は、そり舌音の後ろに母音がないため、そり舌音の前に母音を入れないと発音しにくいからこうなったのではないかと素人ながら予想。


ここにさらにベトナム漢字音を加えてみると、ベトナム漢字音では"nh"ではじまる音になっていることに気づいた。


【児(儿・兒)】:呉音「ニ」>漢音「ジ」>普通話"ér" / ベトナム漢字音"nhi"
【人】:呉音「ニン」>漢音「ジン」>普通話"rén" / ベトナム漢字音"nhân"
【若】:呉音「ニャク」>漢音「ジャク」>普通話"ruò" / ベトナム漢字音"nhược"


こうみるとここでのベトナム漢字音は日本漢字音の呉音に非常に近いと感じられる。


そして朝鮮漢字音をみてみると、なぜか冒頭の子音はなくなっている。


【児(儿・兒)】:呉音「ニ」>漢音「ジ」>普通話"ér" / ベトナム漢字音"nhi" / 朝鮮漢字音"아(a)"
【人】:呉音「ニン」>漢音「ジン」>普通話"rén" / ベトナム漢字音"nhân" / 朝鮮漢字音"인(in)"
【若】:呉音「ニャク」>漢音「ジャク」>普通話"ruò" / ベトナム漢字音"nhược" / 朝鮮漢字音"약(yak)"


なぜ朝鮮漢字音では冒頭の子音がなくなったのか、その変遷には理由があるのだろうが、今の私にはわからない。


・・・以上ようにすべての漢字音がきれいに対応していることに気づいた。これはおもしろい。
こういうことを、もっと体系立てて学びたいと思っている。


おそらく大学の中国文学科や中国語学科にはこういうことを教える先生がおられるのだろうとは思うが・・・。今の仕事と家庭がありながらもう一度大学に通うのは難しいなあ。