アジアのお箸

中国語・韓国語・ベトナム語・広東語が似ているので同時学習してみるブログ(東アジア漢字文化圏の言語の比較・対照)

主題と主語

今回の投稿のタイトルは「主題と主語」───これまた壮大なタイトルをつけてしまいました。これだけで論文が何本もかけてしまうであろうテーマ。

さて、前回・前々回と取り上げさせていただいたこちらの中国語の文。

  这种宝石价格很贵。
  zhè zhǒng bǎoshí jiàgé hěn guì  
  (この宝石は価格が高い。)

これはNHKラジオ「まいにち中国語」で5月に紹介された文だ。ラジオ放送では、「この宝石は」が「大きな主語」で、「価格が」が「小さな主語」といっていたが、それは話を分かりやすくするためにあえてそういう説明をしたのだろう(と思う)。日本語文法で考えると、「この宝石は」は「主題」で、「価格が」は「主語」になるという解釈が一般的だ(と思う)。

「象は鼻が長い。」という文を聞かれたことがあるだろうか。これは三上章という日本語学者の著書のタイトルにもなっている。「象は」は「主題」であり、「象について話をすると~」という文のテーマを示している。「鼻が」は「主語」であり、「何が長いのか」を示している。(※主題や主語についてはさまざまな解釈や論争があり、これはあくまでひとつの解釈に過ぎないのでご注意を。また三上章自身の解釈も初期と後期では揺れがある。)

もう一度整理する。「象は鼻が長い。」は、『「象」は「鼻が長い」』と解釈できる(とされている)。つまり「象」というテーマをかかげて、それについて「鼻が長い」と述べている。言い換えると、「象についてお話をすると、鼻が長いですねえ。」ということだ(とされている)。

他の例として「かき料理は広島が本場だ。」がある。これは『「かき料理」は「広島が本場だ」』と述べる文である(とされている)。決して『「かき料理」は「本場だ」』とは解釈できず、それでは意味が通じない。「かき料理についてお話をすると、広島が本場ですねえ。」ということだ(とされている)。

さて、今回私が書かせていただきたいのは、この「象は鼻が長い。」という構造の文は、英語には存在しないが、日中韓越すべてには共通して存在する!ということだ。

日本語
 象は鼻が長い。

中国語(普通話
 这种宝石价格很贵。
 zhè zhǒng bǎoshí jiàgé hěn guì  
 (この宝石は価格が高い。)

韓国語
 한국은 인구가 많다.
 (韓国は人口が多い。)

ベトナム語
 Tôi tên là Yamada.
 (直訳:私は名前が山田だ。)

英語ではこういう言い方は(原則的には)できない。日本人が日本語的発想でこういう言い方を英語でしたいときには、"Regarding A, B is C."とか"Talking about A, B is C."とか"As for A, B is C."などというしかない。

他の言語ではどうだろう。妻の学んでいるドイツ語でもこういう文は(基本的には)ないという。

このような「象は鼻が長い。」のような言い方をする言語のことをTopic-prominent language(主題優勢言語・主題卓越型言語)と呼ぶ。そして英語版Wikipediaではその言語の例として下記を挙げている。

・中国語
・日本語
・韓国朝鮮語
ベトナム語
・マレー語
インドネシア語
シンガポール英語
・マレーシア英語
トルコ語
ハンガリー語
・ソマリ語
・ネイティブアメリカ諸言語
ブラジルポルトガル語
アメリカ手話

「中国語、日本語、韓国朝鮮語ベトナム語、マレー語、インドネシア語」というのは、言語の系統が同じというわけではなくて、おそらく言語連合(地理的に隣接している言語が接触してお互いに性質が似てくること)なのではないかと個人的には想像している。

シンガポール英語、マレーシア英語」はあきらかに華僑が話す中国語からの影響を受けて英語の文法が変化したのだろう。また、土着のマレー語の影響もあるかもしれないと想像。

トルコ語ハンガリー語」というのを見ると、いわゆる「ウラル・アルタイ語族」という、東は日本語から西はトルコ語ハンガリー語までつながっている(とされたが残念ながら今はおおむね否定されている)壮大な仮説を彷彿とさせる。

そういえば仕事で中国から来る英語のメールの文はたまに、"A~, B is C"のような、あきらかに「象は鼻が長い」的なものがある。日本語と発想が同じなんだなと不思議な親近感を受けたのを覚えている。

このように各言語の文法構造を比べること───対照言語学と呼ばれる───はおもしろい。

それでは最後にオリジナルの文を作って終わりたい。「今日の投稿は内容がこむずかしい!」


※中国語の文法について、実はあまり自信がありません。間違いや異論があれば、ぜひお知らせいただければありがたいです。