アジアのお箸

中国語・韓国語・ベトナム語・広東語が似ているので同時学習してみるブログ(東アジア漢字文化圏の言語の比較・対照)

【或】=または、あるいは (孤立語と膠着語の話)

漢和辞典(昔の中国語)によると、【或】という漢字には「または、あるいは」という英語の"or"の意味がある。そして日中韓越のすべてでその意味が生きているのでご紹介。

日本語
 あるいは【或いは】

中国語(普通話
 huò【或】
  您喜欢绿色或紫色的葡萄吗?
  nín xǐhuān lǜsè huò zǐsè de pútáo ma
  (あなたは緑色か紫色かどちらの葡萄がお好みですか?)

韓国語
 혹은【或은】
  문서 혹은 구두로 신고할 것.
  (文章あるいは口頭で申告すること。)

ベトナム語
 hoặc【或】
  Họ không có trà hoặc nước ép.
  (彼らはお茶もジュースももっていない。)

中国語とベトナム語は「孤立語」と呼ばれ、語形変化をせずに意味を表す言語である。中国語ではhuò【或】の1単語で「あるいは」の意味を表す。その漢語がベトナム語に入り込んでも、ベトナム語も中国語と同じく「孤立語」であるから、hoặc【或】の1単語で「あるいは」の意味を表す。こういう点において中国語とベトナム語の文法的な性質はよく似ている。

それとは対照的に、韓国語と日本語は「膠着語」と呼ばれ、この場合では助詞が後ろにくっつく言語である。韓国語では漢語系語彙の혹【或】だけでは成立せず、その後ろに은という助詞(日本語の「は」とほぼ同じ)をつけて혹은【或은】とすることで単語として成立する。日本語は音読みではなく訓読みのため少し事情が異なるが、新明解国語辞典によると"文語動詞「あり」の連体形+上代語の助詞「い」+助詞「は」"という構造で「あるいは」という単語が成立している。

このように【或】という漢字(漢語)をどう扱って「あるいは」という意味を表す単語として成立させるかは、各言語の特性によって異なっている。

───こういうことを複数の言語で対照してみるのがおもしろいです。でも単純に一つの言語を早く学ぶには寄り道しすぎで効率が悪いですよね。わたしは一つの言語をマスターしたいのではなく、複数の言語を対照して、そこにどのような共通点(特に歴史的な共通点)があるのかを知りたいので、わざわざこのような遠回りなことをしております。普通の外国語好きの方とはちょっと異質な勉強法です。変人ですね。