アジアのお箸

中国語・韓国語・ベトナム語・広東語が似ているので同時学習してみるブログ(東アジア漢字文化圏の言語の比較・対照)

【書評】中国語とはどのような言語か(橋本陽介)

「書評」と書くのがおこがましいほど、非常にしっかりとした書籍です。大学生向けのような内容でしょうか、主に中国語の文法についてまとめられています。

特に、中国語の歴史的な変遷を切り口に解説していたり、また、日本語や英語と対照して中国語にどのような特徴があるかを説いたりしており、非常に読み応えがあっておもしろいです(※)。

出典や参考書籍も明示されており、この本をきっかけにさらに先行研究に当たれるようになっています。

内容が非常にしっかりしており、なおかつ難しい内容をなるべる分かりやすく書こうとされています。読んでいるとなんだか、大学生の頃に戻った気分になります。

(※余談ですが、本書では、中国語の文法を日本語や英語と「比較」するという記述がありますが、おそらくこれは「対照」するという用語を使うのが妥当なのではないでしょうか・・・?)



・・・さて、この書籍で1つ、特に印象に残ったところをご紹介させていただきます。第七章の「是」についてです。次の例文をご覧ください。

 例文1:我是大学生。(訳:私は大学生だ。)

上の例文1では、「A是B」は「A=B」の意味で使われています。このように「是」はAとBをイコールで結ぶ意味のように思われます。しかし次の例はどうでしょうか。

 例文2:昨天来的是小王。(訳:昨日来たのは王君だった。)
 例文3:有人昨天来、是小王。(訳:昨日誰かが来たんだけど、王君だった。)

例文2は「A=B」ですね。「昨天来的(A)」=「小王(B)」という関係です。ところが例文3は少し違います。「昨日誰かがきた」とまず動詞句で述べ、その後ろに、「それは王君だった」と説明を続けています。これはどういうことでしょうか。

本書では、「是」の古典漢文での用法に着目しています。次の論語の例文をご覧ください。

 例文4:富與貴、是人之所欲也。[論語] (訳:富と貴、これは人が欲するところのものである。)

古典漢文では、まず「富と貴」を挙げたうえで、「それは人の欲するところである」と続けています。先行する要素A(富と貴)に対して、「是」以下で要素B(人の欲するところである)という判断や説明を加えているのです。

本書ではこのように、「是」は本来は「指示詞」であり、先行する要素Aに対して説明Bを加える役割があり、単にAとBをつないでいるのではない、としています。また、現代中国語においても、「是」がこの本来の「指示詞」の意味でなければ解釈できない文があることを、複数挙げています。

本書の「是」に対する記述が100%正しいものかどうかは私にはわかりませんが、非常に説得力があると感じました。



・・・ちょっと小難しくなりました。とにかく全体的にかなり良い本だったのでご紹介させていただきました。中国語を学んだことのある方はぜひ読んでみてくださいね。