中国語・日本語・韓国語・ベトナム語の漢字音はよく似ていたり少し違っていたりする。漢字の音を1000年以上さかのぼって調べると、そこには一定の法則がみえてくる。極力専門用語を使わずにその法則をシンプルに整理し、これらの言語を同時に学ぶときに役立てたい───。中国音韻学を独学しながら、対応の法則をまとめ、練習問題も用意して教科書の形を目指した怪作シリーズです。
今回から韻尾(特にお尻の子音)です。これはかなりとっつきやすいです。中国語や韓国語やベトナム語を学んだことがある人なら、もしかしたら部分的に聞いたことがある話や、経験的になんとなく気づきやすいところになります。
今回は中古音(主に隋唐代の中国語)で韻尾(特にお尻の子音)がm,n,ŋ,uŋだった場合に、どうなっているかをみる。あくまで全体像をざっくりと把握するために作っているため、厳密には妥当でない部分があるかもしれない。
さて下記の表となる。右へスライドして見てね。
| 十六摂 | 例 | 中古音(平山) | 中国北京音(拼音) | 中国広東音(粵拼) | 日本呉音 | 日本漢音 | 韓国朝鮮音 | ベトナム音 |
| 咸,深(入声以外) | m | n | m | ン | ン | ㅁ | m | |
| 感 | ɒm | gǎn | gam2 | カン | カン | 감 | cảm | |
| 山,臻(入声以外) | n | n | n | ン | ン | ㄴ | n | |
| 真 | tɕin | zhēn | zan1 | シン | シン | 진 | chân | |
| 宕,梗,曽,江,通(入声以外) | ŋ,uŋ | ng | ng | ウ | ウ,エ行+イ | ㅇ | ng,nh | |
| 陽 | iɑŋ | yáng | joeng4 | ヨウ | ヨウ | 양 | dương | |
| 明 | miɐŋ | míng | ming4 | ミョウ | メイ | 명 | minh |
上の表はかなり簡略化しているが、これでもまだわかりにくい。これをめちゃくちゃおおまかにしてしまうと、次のようになる。
中国北京音n - 中国広東音m - 日本音ン - 韓国朝鮮音ㅁ - ベトナム音m
中国北京音n - 中国広東音n - 日本音ン - 韓国朝鮮音ㄴ - ベトナム音n
中国北京音ng - 中国広東音ng - 日本音ウ,エ行+イ - 韓国朝鮮音ㅇ - ベトナム音ng,nh
上が今回のまとめ。アジアの言語を少しかじったことがある人なら、なんとなく知っているかもしれない。
次回は韻尾(特にお尻の子音)がp,t,kの場合をみる。これも結構有名でとっつきやすい。
参考にしたサイト
https://kodaimoji.chowder.jp/chinese-phonology/pdf/oningaku.pdf
https://en.wikipedia.org/wiki/Middle_Chinese_finals
参考文献
平山久雄(1967)「中古漢語の音韻」『中国文化叢書1 言語』pp.112-166
平山久雄(2022)「中古音講義」
佐藤昭(2002)「中国語語音史」
沼本克明(1986,2023)「日本漢字音の歴史」
河野六郎(1979)「朝鮮漢字音の研究」『河野六郎著作集2』pp.295-512
李敦柱(2004)「漢字音韻学の理解」
三根谷徹(1993)「中古漢語と越南漢字音」